【 豆は魔滅ともいいまして。 】 「ごめんな、待たせて」 珍しくスーパーに立ち寄って出てきたギリオの手には、一杯詰まったビニール袋。 「いいけど、…晩御飯?お菓子?」 「いや、豆。今日節分やから」 「ああ、そうだったね。…でもそれにしたって多くない?」 今日は2月3日、節分には確かに豆が必要だろうが、 見た限りではビニール袋目一杯に豆のパックしか入っていないように思える。 「…年に1回ぐらい豆をぶつけな煩悩が退散せぇへんエロ鬼が家に居んねん。 昨日も彼女かなんか押しかけてきて修羅場に巻き込まれてんから。オレ関係あらへんのに」 「あ、ああ……イコさん……?」 呻くような声に色々察して、曖昧に相槌を返した。 親友の家に同居しているイコという大人は非常に性癖が多様でその上対象も男女を問わず、 ギリオに対してセクハラじみた(というかセクハラとしか思えない)言動もよく見かけている。 それに関して相当のストレスがあるのだろう、苦い顔をしていた。 「今日は仕事らしいから帰りは夜やろうけど。何か食ってく?」 鍵を開けるギリオに続いて、竹田も部屋に上がる。 「や、実はオレも家で鬼役やらなきゃなんだ。地図借りたら帰ろかな」 「ああ、そうか。弟さんと妹さん小学生やもんな」 きっと子供はこういう行事が好きなのだろう。付き合う竹田の姿を想像して、目を細めた。 「ふはっ、さっとんが鬼とか似合わんなぁ」 「父さんと母さんも付き合ってくれないんだよー。ひどいよねー」 そう言いながらも、楽しそうにあははと笑う。 親友2人のとても穏やかな光景は、 ―― ガラッ。 扉の開く音で幕を引いた。 …否むしろ、幕は上がったのかもしれない。 「あれっ、もしかしてイコさん帰ってき…」 「鬼はーーー外ーーーー!!!」 「いきなり?!!!!!!!!!」 ドバァァーーっ!!! 枡の中身をぶちまけるような遠投。 いつの間に豆の袋を開けてたのかそれはともかく、 (ていうかこれめちゃくちゃ怒ってるよね?!!) 尋常じゃない反射神経に竹田も慄いた。修羅場は大分ひどかったのだろう。 すぐに2投目に入るものだと思ったが、 「きゃーーーーっ?!!」 「うっわぁ?!!」 聞こえた声はイコのものではない…それも2人居る。流石に動きが止る。 「……あれっ、アンズ…と四郎君?」 豆まみれであることを覗けば見慣れた姿に瞬いた。 「も、もうっ!気が早いわねギー君、びっくりしちゃった」 「ごめん、イコかと思て…。痛かった?」 「あたしはもっと強いくらいの方がいいから大丈夫よ☆」 「オレもです!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ドM2人で幸いだったのかもしれないが、嬉しくはなかった。 「ほんで……どしたん?2人とも」 「節分だから豆撒きしよーと思って!恵方巻きもあるわよ☆」 「そーなんす!で、さっき話してたんすけどどっちが鬼やるか決まらなくて… でも千歳さんがその気なら2人とも鬼ってことでいいっすかね!」 俄然乗り気だと思われたらしく、盛り上がる2人。 「……ほんでもオレ今思いっきりぶつけたから、オレが鬼やるよ」 はい、と、とりあえずアンズに豆がぎっしりの五合枡を渡す。 「え、ええーーー?!!あたしギー君に豆をぶつけるのは嫌だわ…っ」 「そぉか?じゃあ四郎君……」 「おっオレも無理ですよ!!そんな罪深いことできません!!!」 「そんなにかしこまることとちゃうんやけど…」 「じゃ、じゃあ、僕やろうか?」 「あかんよ、タケは家でもやんねんやろ」 無理無理とさがる二人を見かねて竹田が声をかけたが、ギリオは首を横に振る。 丁度そのタイミング。幸か不幸か、玄関先にもう一つ気配が増えた。 「ただいまー、豆もう投げてんの?あれ、みんないらっしゃ…」 帰宅したイコの言葉は、最後まで紡げなかった。 バコーーーン!!! 「鬼は外!!!」 「Σ枡ごと投げた!!!」 即効で投げられた豆(五合枡入り)が顔面を捉えたからだ。 ジャララ…ッ、バラララ…。 カコーン…カラカラ…。 イコを中心に豆の波が広がる。 「〜〜いってぇ!!ギリオッてめ顔にやんなよ!!何だよいきなり!!」 「節分行事やからしゃーないやろ」 「個人的恨みしか感じねーよ!!まだ怒ってんの?!だからアレはオレにも事故だったんだよ! まさかアパートじゃなくてこっちに押しかけてくるとは思わなくて!」 「お前が普段女と男にだらしない生活してる所為やろ。何ッ回目や」 零度の視線を向けられ、ぐっと言葉を詰まらせる。(※心当りはやたらある。) そんな様子にふんと鼻を鳴らして、アンズと四郎の方に視線を移した。 「鬼役やってもらわんでもようなったよ。イコにやってもらうよってに。参加したいねやったら構わんけど」 「参加……?」 気迫にきょとんとしていた2人は顔を見合わせ、イコの方に視線を移した。 ひくっとイコの頬がひきつる。 「えっ!?ちょっと待って?!3対1はさすがに加減してくれる?!!」 「千歳さんがああやって仰るならオレに加減する理由は無ぇな」 「んもう、大丈夫よイコちゃん!きっと2人ともそんなに本気で投げないわよ☆」 「信じるのは美しいことだけど多分これマジだよアンズちゃん!!完全にアウェイ!!!」 アンズは手加減するとしてもギリオと四郎は全力で来ると確信できた。目がマジすぎる。 枡ごと投げることも厭わない雰囲気に首をぶんぶんと横に振る。 「確かにオレはMだけどこういうのなんかやだ!痛いだけなのはプレイとして愛が無い!」 「楽しませるつもりでやるんとちゃうわ」 「ああっもう、四郎君もアンズちゃんもよく考えろよ!ギリオが鬼になったほーが得だろ!!」 「はぁ?なんで千歳さんに豆ぶつけられんだよ」 「だから!あいつの服に入った豆食べ放d… 「鬼は外!!!!!!!」 ズバコーーーーーーン!!! 再びイコの言葉はギリオの投擲により遮られた。 (ご、五升枡…!!!) だが投げられた枡のサイズが五合から五升に変化していたのを、竹田は見逃さなかった。 ※ちなみに最初に投げた五合枡は縦横12cmx高さ6.26cm 五升枡は縦横25.27cmx高さ14.12cm程度の大きさ☆(参考:Wikipedia) 「千歳さん!!いっ今なんかあいつすげぇお得な情報言ってませんでしたか?!!!」 「言ってない。気のせい」 「ギー君!!ちょっと提案があるんだけどローテーションで」 「オレはちょっと竹田を送らんとアカンから」 五升枡の一撃で、イコは玄関先に倒れている(豆の山と枡が邪魔をしてその表情は伺いしれなかったが 恐らく気絶している)のを見るとギリオの溜飲も下った。 今はそれよりも、色めきたっている2人に本能的に危険を感じざるを得ない。 「竹田君ばっかりずるいっ!!」 「じゃ、じゃあせめて恵方巻きを食べていきませんか!!!」 「ごめん、何か生理的に嫌や」 「変なものなんて入ってないわよ?!あたしだって食べるんだから!!」 「中身がどうこうとちゃうて」 「じょ……、女子高生が恵方巻きを……?!!」 「イコさん寝てたほうがいいですよ!!!!今起きたらトドメさされますよ!!」 イコの発言が思春期を刺激し、場の収拾は困難を極めた。 最終的に竹田の「弟と妹が待ってるからっ!!」という叫びで全員冷静になるのは それから30分後のことだった。 END/ ※今回使用した豆は全員で美味しく頂きました。 エロ話してても家族の話題出されると真顔になる原理。 節分過ぎてますね!(冷静) 思いついたのが当日だったもので…。ドンマイドンマイ。 あまり関係ないので省きましたがイコの男女遊びはギリオと同居するようになって大分落ち着いてます。。 13.2.5 |