※日記に描いた性別反転 アンズ(♂)xギリオ(♂)らくがきネタです。おかげ様で普通にBLです。





「……あの、アンズ」
「ん?」

既に『呼び捨てで』と頼まれているので、ギリオはそう呼びかけた。
ここはアンズの自宅の部屋で、家族が出かけているらしく2人だけ。
ほぼ初対面に近い間柄だが、アンズの底抜けに気安い性格の所為か、
不慣れなことはあっても居心地は悪くなかった。
ギリオが座っているのはベッドの上からは、自然、床のクッションに座るアンズを見下ろす形になる。

「オレに、『話したいこと』があるって…ゆうたのって、何やった?」
「……ああ、それね」

学校終りに「泊まりにこないか」と誘われ、承諾したのは断る理由が無かったのもそうだが、
大きな要因は「話したいことがあるから」、と言われたからだった。

(オレのこと、覚えとっただけでも驚いたのにな…)

3年前。街中で出会ったときのことは、ギリオもよく覚えている。
慌しい日で、恐らく一緒に居たのは数時間だけだった筈だ。
その上アンズはすぐに帰国し、今日転校してくるまで1度も会うことは無かった。
(こない綺麗な顔しとったら、誰でも覚えるやろうけど…)
あまり人の顔に興味の無いギリオでもすぐにわかった。
だが、自分は人目を引く外見でない。気付かれたときは、本当に驚いた。
記憶力がずばぬけて良いのだろう、そう納得していたのだが―― 
“話したいこと”となると皆目見当がつかない。

「…言い難いことか?」
口ごもってるように見えて、逃げ道を提示する。が、アンズは首を横に振った。

「や。……ううん、出し惜しみしてるわけじゃあないんだよ。
 ちょっと、色々。頭の中で整頓しなきゃいけないことがあって。
 ……でも、うん。もう、大丈夫」

前髪を少し払って、微笑み返す。仕草のひとつひとつが、サマになっている。
余程、普段から人の視線を集めるのに慣れているのだろう、とギリオは思った。

「ギー君。オレは、あの時…3年前に会ってから。
 次あったら絶対言おうって決めてたことがあるんだ」
「…?何?」

言葉の先が読めず、自然と背筋に力が入る。
アンズは落ち着いた様子で息を吸い、じっとギリオの目を見つめ、


「結婚してください」


静かに、だがはっきりと、口にした。


「…………え?誰が?」

勿論、1度で聞き取れた。だが、聞き返さずに居られなかった。

「オレと。君が」
「え?」
「百々院アンズが千歳ギリオ君に結婚の申し込みをしています」
「俺は男やけど」
「オレもだ。それを、承知の上で」

問い返されることは想定していたのだろう。
躊躇いもなく頷く様子に、冗談ではないのだと悟る。

「……杏は、女の子が好きとちゃうの?」
「女の子はかわいいと思う。魅力的だと思う子も居る。でも、好きなのは別だ。
 ……からかってると思う?」

じっ。碧色の目はギリオの顔に定められたまま、動かない。

「からかわれてる…と、思わへんけども。ただ、あんまり、信じられへんな」
「どうして?」
「…女子に好かれそうやし。わざわざ、男を選ばんでもええやろ」
「男同士なのは、たまたまだった。
 元からオレにそういう素質があったのかどうかは、わかんないけど。
 ギー君以外の男を好きになったことが無いからね」

息を吐いて、目を伏せる。

「気持ち悪い?」
「……、いや。そういうんは無いけど。よく…わからん、感じがする。
 オレのことをそないな風に、……見る人が居るっていうのが」
「あは、良かった。気持ち悪いって言われたら絶望的だからどうしようかって悩んでたんだ」

冗談ぽくわらって、立てた膝を引き寄せるために手を置いた。

「オレは、ずっと、…  3年前、ギー君にあってからずっと考えてた。
 でも会えたのは1度きりだ。オレの勘違いかもしれないって、思うこともあった。
 それで、3年経ってもこの気持ちが消えなかったら、会って確かめようって決めたんだ」

所在なさげに、指を組み替え直す。言葉は乱れることなく、淡々と続いた。

「…結果は、もう知ってるだろうけど。
 今日会っても、気持ちは揺るがなかった。前よりずっと、好きになってた」

「ほでも、結婚は考え直したほうがええと思うけど…」
「3年も考えたよ」
「………」
「……だけど、もちろん、強制するつもりは無い。できるものじゃないから。
 諦めろっていわれたら…努力は、するよ」

言葉こそ穏やかだったが、少し強張った表情。よく見ると、目元も赤い。
(…あ、緊張してんのか…)
驚くと同時に、3年越しの思いを口にするのが、どれほど勇気がいることか、
今頃思い当たった自分の鈍さを恥ずかしく思った。
(ホンマやったらこんな余計な苦労、せんでもええのにな…)
ギリオが女子だったら恐らく、もっと単純だっただろう。どうしようも無いことだが、申し訳無いと感じた。

(……これは、簡単に答えてはいけない…)
逃げたり、誤魔化すのは彼に対して余りに失礼すぎる。

「オレは……正直に言うと。今は、ホンマに、よく、わからへん。
 嫌とちゃうし…好かれて、嬉しい。気遣いとかと違て、本当に嬉しい。
 でも、想像つかへんから。俺は恋人も、できたことあらへんし。
 …ホンマは、ちゃんと、ハイかイイエで答えなアカンて、わかってんねやけど…」

しどろもどろになりながらも、一句ずつなるべく正確な単語になるように考えて答えた。
真剣な表情に、アンズの顔も少しほころぶ。

「…ありがと。優しいね」
「いや……」
「オレを拒絶したら、傷つくって思ってるんでしょう?」
「それは…ある。嬉しいとは思ても、
 ……どこまでが許容範囲なんか、自分でもわからんから」

気持ちは嬉しい。しかし、受け入れたとしても手をつなぐことにも抵抗してしまうのなら
結局、断ったほうが良い、と考えている。
だが肝心の、恋人のような振る舞いができるかといえば、『わからない』。
自信が無いのでは無く、『想像できない』のだから、回答を出すのが難しかった。

どうやって答えようかと考える間に、アンズが立ち上がった。
「……?どないした」
「じゃあ、試してみようか」

すとん。ギリオの隣に並んで座る。

「俺がこれからギー君に触れるから。いやだと思ったところで、払いのけて?殴って構わないから」
「え?!殴…いや、そんなんは…」

随分乱暴な申し出に戸惑うと、困ったようなはにかむような微笑を見せた。
(……ホンマに、綺麗に作られてんねんなぁ…。)
不意に、自分が男でよかったかもしれないと思った。
女であればきっと、この距離で冷静に眺めることは出来ない気がした。
何の脈絡も根拠も無い思考のうちに、伸ばされた手が、頬に触れる。
流れこんだ体温は暖かく、心地良い。

「殴らないとオレは止まらないと思うよ」
「……暴れんのは困る」
「ふは、暴れはしないよ。そうじゃない。ずっと触れたかったから、離せないと思う」

両手で、輪郭を確かめるように包み込む。
口付けされるのかもしれない、とその時思い当たったが、嫌悪感は全く無かった。
不思議なくらい落ち着いていた。諦めたのか、受け入れたのか。
脳が結論を出す前に、感情は答えを出したらしい。

「オレが殴らんと離せへんなるの?変な理屈やな」
「もう、理屈じゃあないよ。感情の問題だ」

アンズの言葉が思考とかぶったことが、少し面白いと感じる余裕はあった。
近づいているのか引き寄せられているのか、それすらもわからない。

「好きなんだ。ただ、それだけだよ」

囁き終わると、距離もゼロになった。







「はい、お茶」
「……幾つか聞きたいことはあんねんけど」

告白を受けてからおよそ10時間後の午前7時。
ギリオはまだアンズの部屋のベッドの上に居た。
かつてこんなに疲労の取れない目覚めがあっただろうか。
不機嫌そうな声を作るまでも無く掠れた声は低かった。

「何?あ、服はね今洗濯中!ギー君、着替えは持ってきてるでしょ?
 なかったらコンビニでパンツ、買ってくるよ!」

ちなみにアンズはかつてなく元気だった。今が人生のピーク☆みたいな顔だった。

「いや、そうじゃない。……お前、初めからこのつもりやったんか?」
「このつもりって?」
「昨日の…、初めから最後までやるつもりで、オレを呼んだん?」
「違うよっ。ほんとに、気持ちだけ伝えようと思ったんだ。
 でも拒否されなかったし、嬉しくてちょっとテンションあがっちゃって…☆(てへっ)」
「ちょっとテンションあがってコレか?!せいぜい接吻の一つ二つで終わると思たわ!」
「エッ?!だって途中止められなかったから…」
「止めたやろ!!かなり早い段階でオレは止めた!!服脱ぐ前に止めた!
「だから、やなら殴らないとダメだよって言ったでしょ?」
「腕を!抑えられたら!殴れへんやろ!!」
「あー…。僕、ちょっと、護身術とか習ってて、その影響が無意識にでちゃったカモ☆ ゴメン☆」
「ゴメン☆とちゃうわアホ!!!目がめっちゃ怖いし死ぬかと思ったホンマにもう…」
「オレの中の雄が、3年越しだから暴れちゃったみたいで…☆
 でも確かに最初はバックで殴るの無理だっただろーけどその後せいじょうi… 、いった!!
 もー!!なんで今殴るのーっ?!!」
「・・・・・、・・・・」

涙目で頭をおさえてこちらを見るアンズは、見た目は女子としても通じるくらい
可愛らしいものだったが、男であることは正真正銘間違いない。
文字通りの意味で痛いほどわかってる。昨晩(から今日にかけて)嫌というほど理解させられた。
額を押さえて、溜息をつく。

ギリオの様子を見て、アンズもベッドの端に座る。

「…痛い?」
「めちゃくちゃ痛いよ」
「……怒ってる?」
「怒ってるよ」
「……オレのこと、嫌いになった?」

そろりと覗き込む視線。不安げな声。

何となく、この回答が結論になるのだろうと思った。
『想像できないから』なんて逃げ道も無い。全ての条件を提示されて、初めて出す答え。

「…… 嫌いとちゃうよ」

額を擦りながら、目を伏せた。

「……たぶん、オレも好きになってたんやと思うよ」

もはやごまかしようも無い。
抵抗しきれなかった。嫌悪感を抱けなかった。だから、そういうことだ。
そう答えると後ろに花が見えるほど明るい表情になって、思い切り抱きしめられた。

「っっギー君!!」
「うわっ!ちょっ、苦し…」
「うれしい!!ありがとう!!俺も好きっ!!!」
「わかっ…ちょ、退いてアンズ!オレっまだ服着てへんねんて!!!」
「なに?不公平ならオレも脱ごうか?
「どっちに統一させとんねん!!!着せろアホ!!」

顔を真っ赤にして大笑いするアンズがあまりにも幸せそうなので、怒る気力もその内になくなった。


[END]



その3日後、正式にプロポーズを受けて、卒業後結婚します。
(〜HAPPY☆END〜)

アンズちゃん(♂)xギリオ(♂)は尋常じゃないくらいスムーズです。
12・5・27